パンやパスタをやめたら体調がよくなった、という話を見て調べ始めた人が多いです。ところが検索すると、効くという話と日本人には意味がないという話が両方出てきます。
グルテンフリーとは何を抜く食事なのか。誰の体で変化が出て、誰には出ないのか。日本の「グルテンフリー」表示はどこまで信じていいのか。この3つを、農林水産省と消費者庁の公開情報で確かめながら並べます。
グルテンフリーは小麦のたんぱく質を抜く食事

グルテンフリーとは、小麦や大麦、ライ麦に含まれるグルテンというたんぱく質を、食事から抜くことです。農林水産省は「グルテンを全く、あるいは、ほとんど含まない」という意味で使われる言葉だと説明しています。ゼロにするという意味ではありません。
グルテンは、小麦粉に含まれるグルテニンとグリアジンという2種類のたんぱく質からできています。水を加えてこねると、この2つが結びついて網目状の構造を作ります。パンがふくらむのも、うどんにコシが出るのも、この網目のはたらきです。
逆に言えば、この網目を作らない食べ物には最初からグルテンがありません。農林水産省は、果物、野菜、芋類、豆類、肉、魚、牛乳、卵をその例に挙げています。穀類でも、米、とうもろこし、キヌア、ソルガムにはグルテンが入っていません。
生まれたきっかけはセリアック病の食事療法
この食事は、健康法として始まったものではありません。もとはセリアック病の食事療法です。1941年に小児科の医師ウィレム・カレル・ディッケが提唱したと農林水産省は説明しています。
セリアック病は、グルテンを食べると自分の免疫が小腸を攻撃してしまう自己免疫疾患です。小腸に炎症が起き、栄養の吸収が落ちて、腹痛や下痢、体重の減少、鉄欠乏性貧血などが出ます。診断された人は、生涯にわたってグルテンを完全に抜く必要があります。
グルテンで不調が出るのは、セリアック病だけではありません。医師が書いた記事では、次の3つに分けて説明されています。
- セリアック病 自己免疫が小腸を攻撃する病気。完全な除去が必要
- 小麦アレルギー IgE抗体が関わる反応。蕁麻疹や呼吸の苦しさ、アナフィラキシーが出る
- 非セリアック・グルテン過敏症(NCGS) 上の2つが否定されたうえで、グルテンを食べると腹部の張りや下痢、倦怠感が出る状態
3つ目のNCGSは、血液検査でも小腸の検査でも異常が見つかりません。そのため「抜いてみて調子がよくなるか」で判断されることが多いと、ひろつ内科クリニックの記事では説明されています。

病気じゃなくても、なんとなくお腹が張る人は当てはまるんでしょうか?

可能性はあります。ただし小麦アレルギーとセリアック病を先に否定してからの話なので、自分だけで決めない方が安全です。
体調が変わる人と、変わらない人がいる
先に結論を書きます。健康な人がグルテンを抜いて体調がよくなるという十分な科学的根拠は、現時点ではありません。農林水産省のページに、そのままそう書かれています。
体重についても同じです。グルテンフリーの食事と体重の関係を実証した研究例は限られていて、十分な科学的根拠はないとされています。それでも痩せたという声がある理由として、農林水産省は次の可能性を挙げています。
- 食生活を見直したこと自体で、行動が健康寄りに変わった
- 小麦製品を避けた結果、炭水化物の量が減りすぎた
- グルテンフリー食品が手に入りにくく、食べる量そのものが減った
一方で、グルテンが体質に合わない人では話が変わります。腹痛や下痢が起きていた人がグルテンを抜くと、症状が落ち着く場合があります。
米粉めんメーカーのケンミン食品も、肌荒れや便通の改善を期待する声はあると書いています。ただし一般の人での体調改善との関係には、十分な科学的根拠がないとも書いています。期待されていることと、確かめられていることは別です。
日本の加工食品には共通の表示基準がない
ここがいちばん見落とされているところです。日本の加工食品全体に共通する「グルテンフリー」の表示基準は、決まっていません。パッケージのグルテンフリー表示は、作り手の自主的な表示だと考えてください。
農林水産省が数値の基準を示しているのは、米粉です。2017年3月29日公表の「米粉製品の普及のための表示に関するガイドライン」がその中身にあたります。グルテン含有量が1ppm以下の米粉を「ノングルテン」と呼びます。1ppmは100万分の1です。
さらに令和2年10月には「ノングルテン米粉の製造工程管理JAS(JAS0014)」が制定されました。製造工程でグルテンの混入を防ぐ規格です。令和3年6月から認証が始まっています。
欧米の基準はこれより緩いです。農林水産省は、20ppm以下を「グルテンフリー」とする欧米の基準に対し、日本独自のノングルテンを設定したと説明しています。数字が20分の1なので、米粉については日本の表示の方が厳しいです。
| 表示 | グルテンの上限 | 決めているところ |
|---|---|---|
| ノングルテン(米粉) | 1ppm以下 | 農林水産省のガイドライン |
| グルテンフリー(欧米) | 20ppm以下 | FDA、欧州委員会など |
| グルテンフリー(日本の加工食品) | 共通の基準なし | 作り手の自主表示 |
もうひとつの目印が、アメリカのグルテン不耐症者団体が作ったGFCO認証マークです。ケンミン食品は、タイの自社工場で2012年にこの認証を取得し、毎年更新していると公表しています。輸入品や国内メーカーの製品で、このマークが付いていれば手がかりになります。
醤油やカレールーにも小麦が入っている
抜き忘れが起きるのは、パンやパスタではありません。つまずくのはほとんど調味料と加工食品です。名前に小麦が出てこないので、意識から外れます。
まず、はっきりグルテンを含むものから。パン、パスタ、うどん、ラーメン、ピザ、ケーキ、クッキー、揚げ物の衣。麦芽を使ったビールも入ります。
問題はここからです。三越伊勢丹の記事は、醤油、市販のカレールーやシチューの素、ドレッシング、ソース類を挙げています。ハムやソーセージのつなぎにも小麦が使われる場合があります。毎日使うものばかりなので、主食だけ米に替えても抜けきりません。
表示の読み方には、知っておくと役に立つ差があります。消費者庁は症例数と重さをもとに「特定原材料」を定め、容器包装された加工食品にその表示を義務づけています。小麦はこの特定原材料に入っているので、原材料欄を見れば必ず分かります。
ところが大麦とライ麦は特定原材料ではありません。義務がないぶん、書かれていないこともあります。
原材料に小麦がなくても、同じ設備で作られていれば微量が混じることがあります。これがコンタミネーションです。その場合は「本品は小麦を含む商品と共通の設備で製造しています」といった一文が、原材料欄の下に書かれています。厳密に抜きたい人は、原材料欄よりもこの一文を先に見てください。
1日1食の置き換えから始める
いきなり全部やめると、たいてい2週間ももちません。まず1日1食だけ、主食を米に替えるところから始めます。三越伊勢丹の記事でも、週末だけ、1日1食だけという緩い形からすすめています。
ステップ1は主食の置き換えです。白米と玄米はもちろん、米粉パン、米粉めん、ビーフン、フォー、十割そばが使えます。そば粉100%でないそばはつなぎに小麦が入っているので、十割かどうかを確かめてください。
ステップ2は調味料を1つだけ替えることです。全部を替えようとせず、使う回数の多い醤油から手をつけます。原材料が米と大豆と塩だけのものや、ノングルテン表示のあるものを選びます。
ステップ3は2週間続けて、体調をメモすることです。お腹の張り、便通、朝の起きやすさを毎日1行だけ書きます。NCGSは検査で分からず、抜いて変化があるかで見るしかないので、記録が判断材料になります。
肉、魚、卵、野菜、果物、乳製品、大豆製品、ナッツ、きのこ類はもともとグルテンを含みません。おやつも、ナッツ、ドライフルーツ、せんべい、餅、プリン、ヨーグルトが選べます。食べられるものは思ったより多いです。
費用も先に知っておいた方がいいです。グルテンフリー認証を受けたパンやパスタ、菓子は、普通の小麦製品より価格が高い傾向にあります。原料と製造管理と認証の費用がのるからです。
全部を代替食品でそろえると続きません。米とそばを中心にして、代替食品はどうしても食べたいものだけに絞ってください。家計の負担がぐっと軽くなります。
始める前に確かめたい2つのこと
最後に、動き出す前に決めておくことを2つ書きます。1つ目は、腹痛や下痢が続いているなら食事を変えるより先に医療機関で相談することです。ひろつ内科クリニックの記事でも、症状で困っている人は医師の診察を受けたうえで、必要に応じて制限することをすすめています。グルテン以外の原因が隠れていることもあります。
2つ目は、自分がどの立場で始めるのかをはっきりさせることです。セリアック病や小麦アレルギーと診断された人にとっては、これは治療です。微量の混入も避ける必要があります。
そうでない人にとっては、体質に合うかどうかを試す食生活です。ここを混ぜると、必要のない我慢が増えます。

今日から変えるなら、夕食の主食を米に替えて、醤油の原材料欄を1回見る。ここまでで十分です。
砂原しんご多くの製品をレビューしてきたガジェットライター。資格勉強にiPad+互換ペンを愛用しています。販売店などからリサーチして最新の情報をお伝えするように努力しています。

